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成人の日

 柔かい朝日を浴びながら、僕は一番の白シャツに袖を通していた。今日は成人の日。なんでも成人をした従姉妹が振袖姿を見せに来るらしく、いい機会だと近い親戚が集まることになったのだ。母と紅茶を淹れているとインターホンが鳴り、玄関へ向かう。その最中に僕は彼女の記憶を手繰り寄せていた。ジャングルジムに登る後姿。着慣れない喪服に身を捩る仕草。あどけない笑顔。浮かびあがる姿はまだ少女で、随分と疎遠になってしまったのだと思う。

ドアを開けると太陽に目が眩む。そして、光の方から声が聴こえた。「久しぶり」そこには、大人の女性がいた。群青に赤い花弁を散りばめた着物に背筋を伸ばし、口元には微かに面影をほころばせている。「私、もう二十歳になっちゃったよ」いじらしく告げた彼女の言葉が、妙に心に残った。