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海とセンチメンタルゴジラ

俺たちは二人だった。港に来たんだから海に行こうと、名古屋港ポートビル周辺まで歩いてきた。とっくに太陽は海へとどっぷり浸かり、星らしき光も針穴程度しか見えず、なんだかのっぺりとした夜空が広がっていた。

友人は急に黙りこくって、暗くて見えないであろう地平線を眺めていた。

海に関しては一つ思い出がある。10歳にもなっていない頃、家族旅行で行った鹿児島でフェリーに乗った。今までこんなに沢山の水は見たことが無くて、俺はかなりはしゃいでいた。そして落としてしまったのだ。相棒のファイナルゴジラを。ひとしきり泣いた後、あいつが海で大きくなって帰ってくるんじゃないかとワクワクしていた。

それにしても真剣な眼差しだ。友人は口を開くと「海を見てるとさ、海じゃなくて山が好きだって思い出すんだよ。焚き火とか。」と言った。

海を見て、山を思い出す人もあるのだ。

俺は友人とハリウッド版ゴジラを観に行く約束をして帰路についた。幼き日の相棒は海を越えて、キングコングと戦うらしい。負けるな、ゴジラ。(ポットラック新聞かわら版 掲載)