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過去に執筆した記事のアーカイブです

2022-01-01から1年間の記事一覧

羊水はたぶん潮の香り

『「まちを残す」にまつわる実践者たちの語り』vol.4は本原玲子さん。土を通して自然の循環を実践する「ARTORO」の話を聴いた。いなくなってしまった古代人の生活を実践し「実感」する。知識とか知見は頭のものだけれど、「実感」はもっと心に根差したものな…

海とセンチメンタルゴジラ

俺たちは二人だった。港に来たんだから海に行こうと、名古屋港ポートビル周辺まで歩いてきた。とっくに太陽は海へとどっぷり浸かり、星らしき光も針穴程度しか見えず、なんだかのっぺりとした夜空が広がっていた。 友人は急に黙りこくって、暗くて見えないで…

お店紹介記事(ジンジャー・モノコトさん)

そこは路地裏にひっそりと佇んでいた。暖かい色味の明かりが漏れ出していて、北欧を思わせる木の扉が開かれている。この匂いはカレーだろうか?しかし、どこか不思議な香りがする。看板には「凄いジンジャーキーマカレー」とあった。 店に入ると、木製のカウ…

進化の海

8歳の夏、名古屋港水族館へ訪れたことを覚えている。それまで海に持っていた印象は、寂しい場所というものだった。森に一歩踏み入れば樹や草、虫、そしてもちろん動物たち、とにかく生物の密度が多い。一方で海は、ほとんどが水で生物の空白が多かったからだ…

成人の日

柔かい朝日を浴びながら、僕は一番の白シャツに袖を通していた。今日は成人の日。なんでも成人をした従姉妹が振袖姿を見せに来るらしく、いい機会だと近い親戚が集まることになったのだ。母と紅茶を淹れているとインターホンが鳴り、玄関へ向かう。その最中…

まちなかサルベージは記憶の海で

この前読んでた論文で、偉いおじさん言っていた。「風景を見ることは、想起された記憶を用いて、自分なりの情景を創造する芸術行為なのだ」と。…それっていったい、どういうこと? 最近、実家の近くのおっきな畑が潰されて、住宅地がドスンと腰を下ろした。…

く〜、いつか生で見たい!

今回はオンラインで開催された音楽プログラム。朝一はクラシカルな楽器たちの心地よいハーモニー…から一転、名港サイファーの皆さんによるラップパフォーマンス!信じられないプログラムだ!っと勝手にテンションMAX。そして午後、いやー創作楽器のICHIさん…

花はいつも、ちょっぴり照れくさい〜画家の福田良輔さんを訪ねて〜

その日は、旧・名古屋税関港寮で滞在制作を行う福田さんの取材日。彼の部屋を訪ねると、油彩でキャンバスに描かれた絵画がいくつも壁に立てかけられていた。その多くが紫を基調とした背景で、中心に大きくピンク色のチューリップが描かれている。しかし福田…

おんがくの起源

覚えているのは、中学生の秋。体育館で聴いたカルテットが胸の内に眠っていた何かを呼び覚ました。僕は部活終わりのヘトヘトの体に鞭を打って帰宅すると、父の書斎に飛び込んだ。埃を被った大量のレコードとCD。「とにかく、歌がない音楽を聴きたい」そんな…

猫窓と消えた少年

土曜市の前夜。猫と窓ガラスに向かう僕たちの足取りは風のようだった。明日に向けた、部活の試合前のような期待と不安がそうさせたのか。それとも晩酌の淡い誘惑か。とにかく二人は颯爽と扉を開け、弾む息遣いでビールを注文した。これから、夜が始まるのだ…

メリー・トム・ハンクス

「クリスマスは何の映画を観るか」それが問題だ。ポットラックビルでの勤務中に僕は、その設問に頭を悩ませていた。毎年クリスマスはでかいチキン、うまいケーキ、上質なラム酒に、最高の映画で祝う。年に一度の祭りを成功させるには、映画は非常に重要だ。…

金沢21世紀美術館・監修 『押忍!手芸大図鑑』(本の紹介記事)

こちらは『押忍!手芸部と豊嶋秀樹「自画大絶賛(仮)」』という展覧会をまとめた本です。文字通り手芸作品の展示なのですが、その実態はフランケンシュタイン博士さながら、手芸で新しい生き物をつくる試みと言えるかもしれません。ぬいぐるみと呼ぶにはあ…

血と破壊と死の女神とのランチ

空は晴れやかだ風は止んでいる。この俺を阻む存在は何も無い。そう、今日は絶対にカレーを食べたい日。俺は自転車に跨り海の方角へ漕ぎ出した。ドルーガ2号店へと入り手早く注文を済ませる。詩集を開き料理を待つのみだ。 眼前にカレーが置かれる。スパイシ…

オーバーラップの船溜り

音を探し歩いていたある日、通りがけの橋でギョッとした。不穏な波の音だ。 そこは放棄された船溜りだった。一方は海、他方はコの字型に防潮壁が建てられ、内側の岸から橋が伸びて船着き場が築かれている。 立て続けに押し寄せる波。3つの壁に衝突し、音が…

そっちはトイレじゃなくて海

海を前にして微睡みの中にいた、土曜。食べかけのシフォンケーキを落としそうになって目を覚ます。ここは名古屋港ポートビル1F。日差しにぎらつく海が室内から一望できる、絶好の黄昏スポットだ。 ぬるい空間を切り裂き突然「そっちはトイレじゃなくて海!」…