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進化の海

8歳の夏、名古屋港水族館へ訪れたことを覚えている。それまで海に持っていた印象は、寂しい場所というものだった。森に一歩踏み入れば樹や草、虫、そしてもちろん動物たち、とにかく生物の密度が多い。一方で海は、ほとんどが水で生物の空白が多かったからだ。その印象から、なんとなく水族館にはワクワクしなかった。

水族館内に入る。人間と魚でごった返したベルーガを横切り奥へと進むと、神秘的な気配を察知した。「進化の海」と名付けられた空間、顔を上げると巨大な骨格が宙吊りになっていた。クジラ。その巨躯を内包しえる「海」という大きな穴。きっと海は、大陸よりもずっとおおきいのだ。そのことを僕は、ゾウとクジラの体長比較で見出した。そうか、空白があるからこそ、大きな生物が生まれるのだ。他にどんなやつがいるのだろう。そう言えばゴジラも海から来ていた。

しかしその骨格は、少しばかりの恐怖も残していった。暗い海で大きな骨が泳ぐ姿を、今でも夢に見る。(ポットラック新聞かわら版掲載)